上海周辺旅日記 第6日

{photo:t806_1東湖.100年前に造った庭園、なかなか味があった}

    ――――― 上海周辺9日間旅日記 8-6.第6日  ―――――


 1997年9月15日

[二日酔いの朝]
  うーーーーーーぎぼぢ悪いー。ひどい二日酔いだ。ここは紹興酒の産地なんだか
ら本望といえば本望なんだが、、、朝から湯冷ましをガブガブ飲む。背の高い魔法
瓶が空になった。便秘は直った。下痢は健在だが、ほっておこう。どーせ、胃の中
はすっからかんだ。風邪ぎみだが、動ける。空は今日も曇り。だから、今日もレン
タチャリはやめ。ツイてない。

[鉄道キップ購入]
 大きな時刻表が掲示してあり、眺めている。案外、便数が少ない。1日9本位在
るのだが、そのまま上海に行き着くのは2本のみだ。
「684号 紹興11:06----上海16:24
  1クー人、軟臥or軟座」
とメモを書いて渡すと軟座を指指してきた。まあいいや。首を縦にふる。結局軟
座を19元で確保。バスに比べて馬鹿安だ。もっと早く出て上海に昼間着きたかっ
たのだが、杭州乗り換えはタイムテーブルが読めないし面倒だ。ヒマだったら675
娘ともゆったりダベってからお別れできる。

[東湖へ]
 駅舎を出て左手にミニバスが集まっていた。その中から、1路のバスを探して乗
る。キップ売りのお姉さんに「東湖」の字を見せて一応確認する。5分もしない内
に発車。キップ売りは察しがよく「1元5角(23円)」のキップを見せてくれる。日
本人は聞き取りはできないが、漢字や数字は問題無く読める事を知っているのだろ
う。おかげで戸惑うことなく、ゆったりと車外の風景を見れる。このキップ売りの
お姉さん、リンとした感じの美女なのだが、偶に鼻くそをほじって眺めているのが
玉に傷。15分後、広い道に出てスピードが上がったなと思っていたら、キップ売り
に肩を叩かれた。右手を指してここが東湖(ドンフー)だと教えてくれた。

[東湖(ドンフー)]
 土産物が7,8軒並んでいる。キチンとした観光地。入場料12元。日がやっと照っ
てきた。入場してすぐ、足こぎ船の勧誘があった。これで市内の各所へ戻れるらし
い。鉄道駅まで「5元?」と筆談。思いっきり安めで相場を探る。おじいさんがと
んでもないって表情で横に首を振りながら「70元」と書いてきた。これは高すぎ。
今度はこっちが冗談じゃないってオーバーな演技をして立ち去った。また帰りに会
うだろう。それにしても相場がわからない。
昨日に続きまた庭園だ。人造湖ではあるが、100年前の物だけに岩の黒ズミや苔、
橋や建物に哀愁が漂っている。(写真、上)なかなか良い感じだ。水を飲みつつ竹林
をぬけ、水辺の石を飛び歩く。奥に行き着いた所でも、庭内のみの船の乗り場があ
った。チケットがあったので価格を覗くと数字が漢字で印刷されており係員がお札
を24元揃えて見せてくれた。この歩くだけなら30分で一周できてしまう湖でこの
値段かぁ。観光地と言うことを割り引いても、5元はたたきすぎだったな。帰り道を
プラプラ歩きながら交渉の作戦を立てる。
(よし、少し距離を縮めて魯迅記念館まで足こぎ船で行こう。20元から始めて50
元以内だったら乗ろう。50元以上だったらバスで市内に帰る。魯迅記念館はバスの
通り道だ。)

入場門前で筆談交渉開始。
TAKT「20元」、おじいさん「60元」
(さっきの事を憶えていたのか10元下がっている)
TAKT「30元」、おじいさん「50元」
(まだ、余裕がありそう。)
TAKT「35元」、おじいさん「遠いから50元よりまからん(表情)」
TAKT「40元」(本当は腹壊してシクシクしてるだけだが、懐がさみしい演技、)
おじいさん「学生(筆談)?」
TAKT、無言で首を縦に振る(おいをい、まだ学生で通用するのか?)
おじいさん、任せとけとばかりに胸をポンっと一たたきして、「40元」を差す。
交渉成立。うれしいが、ちょっぴり罪悪感。後で考えると魯迅ってのが学生っぽか
ったのか?名前と本のタイトルしか知らんのに、、、。

[足こぎ舟]
お金を前払いすると、交渉していたおじいさんでなく、別のおじいさんの舟に乗
り込んだ。交渉役が元締めみたいだ。船頭は一人。客も自分一人。向かい合って座
る。船頭は尻を支点に左手と共に体を支え、両足はパドルを押し、右手に短いパド
ルを持ち、それを左脇にはさみ舵を取る。足は押し出しながら、上下に一定の楕円
を描いている。足とパドルの間に引っかける所はない。だから絶えず動かしてない
とパドルは、川の中に引き摺りこまれてしまう。川幅は、10m弱。ドロ色に濁った
水がゆったりと流れている。時々脇を、砂利や石を満載したモータ付きの舟が行き
交う。こっちの舟が上下に揺れるのは、その時だけ。頭上を時々覆う石橋(2本)には、
毛主席万歳と書いてあった。川の脇の家では、洗濯、歯磨き、子どもの水浴びなど
水郷ならではの日常風景が展開されている。なんだかゆったりとした気分になって
横たわる。通り雨が少し水を差した。すぐ晴れて、足で漕げない細い水路に入って
50分の優雅な船遊びが終わった。


{photo:t806_2足漕舟1.東湖内撮影}


{photo:t806_3足漕舟2.乗船(寝転び)状態から撮影}



 船頭が、酒を飲む真似をし、5元を見せて、物乞いに近い目をして何か言う。意
図はすぐわかったが、水を入ったボトルを差し出し、わざとはぐらかした。料金は
払っている。ここで、Tipとして5元も出してしまったら、日本の学生は金を持っ
ていると思われて要求がエスカレートしていくだろう。心情的には、50分も休みな
く漕いできた60過ぎの老人にポケットに無造作につっこんでいた1元玉のいくら
かあげるつもりでいたのだが、要求する目の奥に哀願でなく観光客をたかる対象と
見てる様な色を感じたので、一気に覚めてしまった。貧しいには違いないが昨日見
た土方の人や農夫に比べたらはるかに良い生活をしていそうだ。ここが観光ズレし
ていくのも時間の問題かもしれない。と思いつつ、その場をすばやく離れた。

[ザクロ]
 舟で降ろされた所は約束の魯迅記念館よりも2km位手前(東)だった。目の前は
50m×200m規模のマーケットだった。昔の団地の中囲まれている為、観光客は皆
無。なんとなくのんびりした雰囲気である。魚や肉も見られるが、二日酔いにこの
臭いは辛い。果物のエリアにいくとお腹がキューっとなった。食べれそうだ。バナ
ナ2本とザクロ1個で7.5元、一昨日の杭州でのザクロ1個40元ってのは、
TuristPriceだということが良く分かる。市場前のただっ広い交差点に木陰があり
バナナを平らげた。ザクロを食べようと思ったが割れてない。買ったところに戻る
と小型の青龍刀の様なナイフがあり、切ってほしいって身振りをするとさっきおじ
さんが笑顔で頭を取り、おばさんが慣れた手つきでアイボリー色のヘタを取ってく
れた。笑った時の茶色く深い皺と誠実な対応に妙に感動しながらこちらも笑顔にな
る。また木陰に戻った。大分楽になったが、まだ、頭が重い。いつもより緩慢な動
作でザクロを1粒ずつむしっては食べ、甘酸っぱく、さわやかな汁を少量ずつ味わ
う。木の根本に種を吹き出す。その繰り返しを延々とやっていた。時間をたっぷり
かけ残り半分になった時、面倒くさくなり始めて、5,6粒いっぺんにとか、かじり
ついたりした。この横着の罰はヘタの渋みでしっぺ返しを受ける。
昨日の感謝として残りは675娘にやろう。三輪車のお金も受け取るのを一旦断っ
た彼女だから、こういうささやかな物の方が良いだろう。食べながら残りの粒を
綺麗に揃えた。

[越劇を求めて]
 果物を楽しんだ後、魯迅記念館を目指して歩き出したのだが、睡魔と二日酔いが
ぶり返し、頭がクラクラしてきた。仕方なく、流しのタクシーを拾い、宿へ帰った。
ロビーを入ると15mも離れたレセプションカウンターで女の子がこぼれんばかり
の笑顔を向けてきた。昨日親切にしてもらった675娘だ。その笑顔に、こちらも頭
が痛いのも忘れて、カウンターに向かった。まず、ザクロ半個を「贈(筆談)」って
笑かす。次に紹興で是非見たい演劇"越劇(ユエジイ)"(この地発祥の女性だけの舞台
演劇)があったのを思い出して尋ねてみる。彼女だったらカンが良いし、こちらのい
いたい事を一生懸命判ってくれようと努力してくれると確信していた。いざ筆談を
始めると、前日はあんなに苦労したのに「見たい」という事を即座に理解してくれ
た。
 結局、判ったのは、夏の昼間しか興行せず、しかも毎日やっているわけではない。
前日観光したコー岩でやっているそうだ。湖上の舞台はすぐ思い出せた。でも劇が
始まる気配は全くなかった。時間は3時。時間的に行けなくは無いが、越劇が見れ
るという確証が持てない以上、行く気は持てなかった。675娘と意志の疎通がスム
ースになっていることにささやかな充足感を感じる。と同時に頭痛とけだるい睡魔
がぶり返してきた。
 一旦,部屋に戻ってシエスタしよう。

[越劇を求めて2]
 起きたら5:30。まだ,望みは捨てていなかった。大きな国際ホテルなら、夜に
館内でやっているかも。っと考えていた。一眠りして、体はまだだるいが、頭痛
はおさまっていた。紹興をミニバスやタクシーで出入りする時ひときわ高くそび
えるホテルがあった。あそこなら、きっと。
 目指す「紹興国際大酒店」は「金谷飯店」のロビーを出ると見えている。距離は
徒歩15分と予想出来るが、体調を考え、流しのタクシーを止める。「紹興国際大
酒店」を示すと運転手は、水戸黄門の印籠を見せられた町人の様に「ははーー」っ
ておどけた感じでお辞儀をした。。やはり、あのホテルの格は相当なもんなんだろ
う。ほんの5分でロビーに横付けし、内心ジーンズはまずいかな?などと思いつつ、
胸を張ってレセプションに向かって歩いた。
 話は早かった。英語が問題なく通じ、すぐ日本語を話すSales Repersentativeを
呼んでくれた。そのSales Repersentativeは、オーストラリアのワーホリによく居
た感じのコロコロした容姿で気さくな語り口の女性で名をSiという。以後、日本語
で話す。100%わかる言葉で得られた情報は、昼得たものと大差なく、このホテル
内でやっているかどうかは聞くまでもなかった。ここ紹興で9月はシーズンオフな
のだ。でも、はっきりわかってあきらめがついた。
 Siは、長野に留学していたそうだ。明らかに客ではない自分に名刺を差し出し、
「夜が退屈ならつき合うし、困ったことがあればTelしてちょうだい。」
とまで言ってくれた。親切で言ってくれているのはわかる。時期はずれに、中国語
が全く話せない異国の1人旅がよっぽど頼りなげに見えるのだろうか?それとも、
紹興の人は皆親切なのか?一言お願いすれば、本当につき合ってくれそうだったが、
丁重にお礼を言ってあっさり別れた。
 シングル380元ながら、ヒルトンやシェラトンにもひけをとらないロビーをさっ
と眺めまわし、6000円弱でこの格だったら1泊くらい贅沢してもいいなって本気
で思った。客は少なく、ガランとした空気がただよっていた。
 本当はSiの方も退屈してたのかな?
 おしい事をした。帰国後、思い出してちょっぴり後悔。

[川と柳と屋台]
宿(金谷飯店)へは、裏道をブラブラ歩いて帰った。夕刻、川幅5mもないドブ
川、川の北岸には柳、南岸には洗濯物を干した民家が並んでいる。川の臭いを抜き
にすれば、なかなか情緒的な風景だ。石橋の真ん中で東西方向を写真に納めた。道
ばたで、鶏の羽をむしっている人がいる。ごく自然に夕飯のおかずを用意している
様だ。街の中心部に向かうにつれ市場や屋台が増え、活気がでてくる。
日は落ち、空の色は一面紺色になった。市場でボンタンを買った。腹は空いてい
るのに食欲が湧かない。でも、何か食べないと風邪は治らない。
屋台のおばさんに向かって、カニとチンゲン菜と豆腐と卵を差し、1皿作ってく
れと頼むが、会話は、「1(イー)」以外全部身振り。おばさんは、3皿になると
言って譲らない。皿数で儲けが決まるのか?、食材のコンビネーションが悪いのか、
ガンとして3皿を譲らない。平行線のまま、ラチがあかないので、別の屋台へ移っ
た。川岸に15軒以上並んでいる買い手市場だ。っと、J・チェンとM・J・フォ
ックスとサムハンキンポーをMIXしたような元気な18歳位の男の子(以下JMS)
が、一生懸命呼び込みしてきた。全長30cm大のワタリガニもある。これだけで1
皿作ってもらい、足りなかったらもう一品追加しよう。昨夜で、飲み過ぎ、食べ過
ぎには十分懲りている。24時間たった今でさえ、ずらりと並んだ裸電球がまぶし過
ぎる位なのだ。

[ワタリガニ]
使い捨てに使うポリの深皿に甘辛スープに浸かったカニが出てきた。アチアチっ
っと、手掴みでからを割り、足の身を食べる。
ふっはほ、はほはほ、ワッタリガニ♪、ワッタリガニ♪。
ニタニタしてしまう。うまい。JMSと目が合い、思わず親指突き出して、グー。
実は、自分にとってカニは、味は好きだが、食べるのめんどくさいし、好んで注
文する食べ物ではない。7年前のA型肝炎も忘年会のカニが原因だった疑惑が濃い
のだ。でも、喰ってよかったワッタリガニ♪
有名な上海ガニは、見たことがないが、聞いた話では、身が小さく、大きさも今
一らしい。おまけに旬が10月末〜11月だ。比べて、ワタリガニは旬がそれより前
で、味は上だそうだ。
講釈はどうでもいい。ワッタリガニ♪うまい、ワッタリガニ♪うまい
思い出しただけでよだれが。デザートは持ち込みのボンタン半個。
とにかく安く、リッチな夕食だった。

[675娘]
宿に帰った。入口では、真っ赤なチャイナドレスの女が白くスラっとした足を、
どうだっとばかりに見せて立っている。その堂々とした立ちっぷりに思わずカメラ
を向けた。彼女は立ち方を崩さない。彼女なりにプライドを持ってこの仕事をして
いる様に感じた。
「謝謝」
と言うと、レンズ前よりも少し砕けた表情になり、妖艶な流し目をして笑った。一
瞬背中の骨髄をくすぐられる感覚が走る。うぅ〜ん、goodだぜ。

フロントを見ると、675娘が自分に気付いて満面の笑顔になる。百合や桔梗もい
いが、コスモスも良い。部屋への階段は反対方向なのだが、なぜか話に行かなけれ
ばならないような気がして、675娘1人が立っているカウンターへ向かった。
「越劇は見れなかった。諦めたよ。でもありがとう。」
「今日は東湖へ行ったんだ。」
「さっき、カニを食べた。これはボンタン」
身振りだけで伝えられる情報は少ない。まるで小学1年生が母親に今日あった事を
報告している様な調子だ。会話がとぎれ、第三者的に自分を見つめる一瞬にとまど
った。今の彼女には、この不器用な旅行者を暖かく包み込む母性を感じた。若くて
綺麗で素直そうでかわいい容姿からそぐわない印象を改めて感じ、とまどったのだ。
少し黒っぽい紅い口紅が顔にマッチしていなくてそう感じさせるのか?
照れ隠しに手にしていたカメラを向ける。
「撮っていい?」
675娘の首がぎこちなく斜め下へ、うなずく。猛烈に照れている。
「smile!」
と、からかうと、もっと照れて変な顔になった。
わっちゃー、言わなきゃよかった。と思いつつ、シャッターを切った。
「ツアイチェン、再会!」
笑顔で手を振る彼女の顔が元に戻った。この表情が欲しかったんだけどなぁ。


風薬(ルル)飲んで21時就寝。


[金谷飯店(GIN GU HOTEL)]
 Suiteが220元。ツイン170元。シングル150元。ホテル内にGym、美容室、
会議室、パソコンルーム、カフェ、食堂、がある。
  Tel.0575-5134983,0575-54143210,Fax.0575-5134871

[本日(9/15)の主な出費]
宿代(金谷飯店)        170元
東湖入場料        12元
足こぎ舟         40元
タクシー(2回)          14元
カニ一皿          18元


    ―――  上海周辺9日間旅日記 第7日 へ    つ・づ・く ―――


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